ファネル分析は、顧客が商品やサービスを初めて「知る」段階から最終的な「購入」に至るまでの道のりを可視化し、各段階で顧客が離れてしまう原因や問題点を特定するための分析手法です。コンバージョンに至るまでの顧客行動を細かく分解し、コンバージョンに至らなかった顧客がどの時点で離脱したのか、そしてその理由を探ります。このプロセスを漏斗(ファネル)に見立てることで、マーケティング戦略におけるボトルネックを発見し、改善につなげることができます。特にBtoBマーケティングでは、顧客獲得から育成、商談成立までのプロセスが明確であるため、ファネル分析が非常に有効です。顧客行動全体を把握することで、マーケティング全体の課題や、個々の施策におけるコンバージョン改善に役立つ分析手法と言えます。
ファネル分析の主な目的は、顧客が購買プロセスから途中で離れてしまう箇所を特定し、その根本的な原因を明らかにすることで、コンバージョン率を向上させることです。ファネル分析を実施することで、次のようなメリットが得られます。
ファネル分析を通じて、マーケティング施策の効果を最大限に引き出し、売上増加に貢献することが可能となります。
ファネル分析には、主に3つの種類が存在します。それぞれの特徴と活用方法を理解し、目的に応じて適切に使い分けることが重要です。
パーチェスファネルは、最も基本的なファネル分析であり、消費者が購入に至るまでの心理的なプロセスを段階的に示したものです。「認知」→「興味・関心」→「比較・検討」→「購入」という4つの段階に分け、各段階における顧客の離脱率を分析します。各段階を経るごとに、対象となる顧客が徐々に絞り込まれていく様子が、逆三角形の漏斗のような形状になることを表しています。
このファネルは、AIDMAモデル(注意、興味、欲求、記憶、行動)を基に発展したものであり、顧客が購買に至るまでの心理的な変化を理解するのに役立ちます。例えば、ランディングページへの流入⇒ランディングページ内での行動⇒コンバージョンと設定し、離脱箇所の特定や課題の発見に活用できます。
インフルエンスファネルは、従来の購買ファネルとは対照的に、購入や申し込みといったコンバージョン後の顧客行動に着目したフレームワークです。サブスクリプションモデルの普及やSNSの浸透により、購入後の顧客によるレビューや口コミが、新たな顧客獲得に繋がる事例が増加しています。
このファネルは、顧客が製品やサービスを継続的に利用し、他の顧客に対して推奨する過程を可視化します。「継続利用」→「紹介」→「情報発信」という段階を経て、顧客がブランドの熱心な支持者となることを目指します。このようにインフルエンスファネルは、コンバージョン後の成長が見込まれることから、従来のファネルとは逆向きの三角形で表現されることが一般的です。
インフルエンスファネルは、製品やサービスの継続利用、紹介、高評価レビューを最終的な目標とするマーケティング戦略に有効活用できます。また、カスタマーサクセスを重視するBtoBマーケティングにおいても、重要な分析ツールとなります。
ダブルファネルは、購買ファネルとインフルエンスファネルを統合したもので、顧客の購買プロセス全体を網羅的に分析するための手法です。購買ファネルにおける「認知」⇒「興味・関心」⇒「比較・検討」⇒「購入・申し込み」という段階に加え、インフルエンスファネルにおける「継続利用」⇒「紹介」⇒「情報発信」の段階までを包括的に分析します。
既存顧客による情報発信を通じて、新規顧客を獲得する好循環を生み出し、認知度、受注率、継続率などの向上を目的としています。現代のマーケティングにおいては、顧客ロイヤリティを高め、顧客をブランドのアンバサダーとして育成し、マーケティング活動を支援してもらうことが不可欠であり、ダブルファネルはそのための有効なアプローチとなります。
ファネル分析を効果的に実行するためには、以下のステップを段階的に進めることが重要です。
まず、ファネル分析を実施する目的を明確に定義します。例えば、コンバージョン率の向上、顧客ロイヤリティの強化、新規顧客の獲得などが挙げられます。次に、設定した目的に応じて最適なファネルを選択します。購買ファネルは新規顧客獲得に、インフルエンスファネルは顧客ロイヤリティ向上に、ダブルファネルは両方の目標を同時に達成したい場合に適しています。
キャンペーンのランディングページなどを分析する際に、コンバージョンを資料請求と定義するのであれば、標準的な購買ファネルを選択するのが適切です。BtoBビジネスにおいて、継続利用やLTV(顧客生涯価値)の最大化を目指すのであれば、インフルエンスファネルやダブルファネルが適しています。既存顧客を活用して新規顧客の獲得を狙う場合は、ダブルファネルが特に有効です。
選定したファネル構造に従い、顧客の行動を複数の段階に分割し、それぞれの段階におけるKPI(重要業績評価指標)を設定します。例えば、購買ファネルを用いる場合、「認知」段階のKPIとしてはウェブサイトへの訪問者数、「興味・関心」段階では資料ダウンロード数、「比較・検討」段階ではお問い合わせ件数、「購入」段階では契約成立数などが考えられます。
BtoBマーケティングにおいて、顧客獲得を最終目標とする場合、見込み客の発掘(リードジェネレーション)から、見込み客の育成(リードナーチャリング)、そして顧客獲得という流れで段階を区切ります。最初の「見込み客の発掘」段階では、リード数を増加させるために、製品やサービスの認知度向上と関心の喚起を目的とした施策を実行します。次の「見込み客の育成」段階では、顧客の潜在的なニーズを顕在化させ、最終的なコンバージョンへと導くことを目指します。最後の「顧客獲得」段階では、商談の設定や製品・サービスの購入を最終的な目標として設定します。
設定したKPIに基づいてデータを集め、各段階の数値状況を分析します。Googleアナリティクスなどのツールを使用し、ウェブサイトのトラフィックやコンバージョン率などを測定します。さらに、CRMやMAツールを用いて、顧客の行動履歴や属性といったデータを収集し、分析に役立てます。
各段階における顧客の行動を分類後、離脱率が特に高い箇所を特定し、その原因を深く掘り下げて検討します。想定していた場所とは異なる箇所で離脱が頻発しているなど、予期せぬ問題が発生している場合も、必ず確認するようにしましょう。
データ分析の結果を基に、各段階における問題点を洗い出します。例として、「認知」段階でのアクセス数が少ない場合は、広告戦略の見直しやSEO対策の強化が有効です。「興味・関心」段階での資料請求数が伸び悩んでいる場合は、ウェブサイトのコンテンツ改善やランディングページの最適化を検討します。問題点が明確になったら、具体的な改善策を実行し、その効果を検証します。
改善策を実行した後、その効果を測定し、PDCAサイクル(計画、実行、評価、改善)を繰り返します。効果測定には、A/Bテストや多変量テストなどの手法を用いて、改善策の効果を客観的に評価します。効果が認められない場合は、再度問題点を特定し、新たな改善策を実行します。
BtoBマーケティングでは、見込み客の獲得から育成、そして実際の商談に至るまでの道のりが複雑になりがちです。そのため、ファネル分析は非常に有効な手段となります。BtoBの営業プロセスをファネル分析する際には、例えば「ターゲットリストの作成」から始まり、「電話やメールによる初回コンタクト」、「商談の設定」、「提案書の提出」、そして最終的な「受注」という流れが典型的な営業活動のプロセスとなります。各段階において、どれだけの顧客が次の段階へと進んでいるのかを数値として明確に把握することが重要です。
各段階(フェーズ)における施策やコンテンツの例としては、以下のようなものが考えられます。
これらのコンテンツを各段階にいる顧客に対して適切に提供することで、円滑な購買プロセスをサポートし、最終的なコンバージョン率の向上に貢献できます。
ファネル分析を効率的に進めるためには、適切なツールの利用が不可欠です。ここでは、代表的なツールをご紹介します。
Googleアナリティクスは、Googleが提供している無償のアクセス解析ツールであり、ウェブサイトへの訪問者数や流入経路、サイト滞在時間、離脱率などを把握することができます。ファネル分析機能も搭載されており、「目標到達プロセス」を利用することで、ユーザーがどの段階で離脱しているのかを特定できます。ウェブサイトを対象としたファネル分析を行う際に非常に役立ちます。
MA(マーケティングオートメーション)ツールは、潜在顧客の行動を追跡し、スコアリングや顧客育成(ナーチャリング)を自動化するツールです。マーケティングファネルにおける「認知」から「興味」、「検討」という各段階での施策効果を数値化できるため、効率的な見込み客育成に繋がります。
SFA(Sales Force Automation)ツールは、営業活動における商談の進捗状況や顧客とのやり取りの履歴などを一元的に管理します。営業ファネルにおける「初期接触」から「商談」、「提案」、そして「受注」という各段階での転換率を把握し、どの段階で顧客が離脱しているのかを明確にすることができます。CRM(Customer Relationship Management)ツールは、顧客に関する情報を集約・管理し、顧客との接点や行動の履歴を時系列に沿って追跡できます。ファネル分析においては、見込み客の育成段階や顧客ロイヤリティの状況を把握する上で役立ちます。
Mixpanelは、グロースハックやプロダクト分析のためのツールとして広く知られており、ファネル分析に有効です。各段階におけるコンバージョン率の差異や、ユーザーの行動パターンを詳細に分析することで、コンバージョンに至らない要因を特定します。そこから改善点を見つけ出し、適切なアプローチを行うことで、優良顧客へと育成していくことが可能になります。
これらのツールを組み合わせることにより、マーケティングから営業までの一連の流れを統合的に管理し、施策の効果を最大化することができます。
ファネル分析は非常に有用な分析手法ですが、利用にあたっては注意すべき点と限界が存在します。
これらの注意点を考慮し、ファネル分析の結果を過信せず、他の分析手法と組み合わせて活用することが重要です。
ファネル分析をより効果的に行うためには、ペルソナ設定が非常に重要です。ペルソナとは、ターゲット顧客の具体的な人物像を指し、年齢、性別、職業、趣味、価値観などの詳細な情報を含みます。ペルソナを設定することで、各段階における顧客のニーズや課題をより具体的に把握し、適切なマーケティング施策を計画することができます。ファネル分析によって明らかになった課題に対する解決策を検討するには、ターゲットとする顧客が「各プロセスにおいてどのような課題やニーズを抱えているのか、どのような情報を求めているのか」を理解する必要があります。
ペルソナを作成することで、各プロセスにおいてペルソナがどのような情報を求めているのかなどを検討しやすくなるため、ぜひ活用してください。
近年、「マーケティングファネルは時代遅れだ」という意見を耳にすることが増えました。その理由として、インターネットの普及によって、消費者の行動が多様化したことが挙げられます。消費者が容易に多くの情報を入手し、様々な商品を比較検討できるようになったため、購買までのプロセスが単純な一本道ではなくなってきているのです。
ただし、この状況は主にBtoCビジネスに当てはまるものであり、BtoBにおいては、ファネルの考え方は依然として有効です。BtoBでは、商品を選定する担当者や決裁者が複数存在し、企業全体の予算で購入を決定するため、個人の興味だけで商品が変更されたり、購入が決まることはありません。
現代においては、ファネル分析の結果を絶対的なものとして捉えるのではなく、顧客行動の多様性を考慮し、柔軟なマーケティング戦略を展開することが重要です。ファネル分析は、あくまで顧客理解を深めるための手段として活用し、顧客のニーズに寄り添った最適なアプローチを心がける必要があります。
マーケティングの世界では、「ファネル」と「カスタマージャーニー」は混同されがちですが、両者は異なる概念です。
ファネルとは、見込み顧客が商品やサービスを認知してから興味を持ち、最終的に購入に至るまでのプロセスを段階的に絞り込んで捉えるためのフレームワークです。一方、カスタマージャーニーは、顧客がサービスや商品と出会い、様々な接点を経ながら購買・利用・継続へと進んでいく一連の体験や行動の流れを視覚化したものです。
たとえば、ファネルが「認知→興味→検討→購入」といったステージに注目するのに対し、カスタマージャーニーは「どのような経路で知ったのか」「どのような感情を抱いたのか」「どのコンテンツが意思決定に影響を与えたのか」など、顧客視点でのタッチポイントと感情の変化に焦点を当てます。
つまり、ファネルは企業側の視点から見た行動段階の把握、カスタマージャーニーは顧客側の視点から見た体験の可視化と言えます。両者を組み合わせることで、マーケティング施策はより具体的かつ効果的なものとなり、見込み顧客一人ひとりに合わせた最適なアプローチが可能になります。
ファネル分析を最大限に活用するためには、自社のビジネスモデルに最適なプロセスを構築することが不可欠です。これまで説明してきたプロセスは一般的な例ですが、業種によっては異なる段階が存在することも少なくありません。したがって、既存のテンプレートに無理に当てはめるのではなく、自社のビジネスモデルに合致した独自のプロセスを設計することが重要です。先程ご紹介したAIDMAモデルの他にも、代表的なモデルをいくつかご紹介しますので、参考にしてください。
利用すべきシーン
具体例
利用すべきシーン
具体例
ファネル分析は、コンバージョン率を向上させるための強力な武器となります。顧客の購買プロセスを明確にし、ボトルネックとなっている課題を特定することで、効果的なマーケティング戦略を展開し、売上増加に貢献することができます。特にBtoBマーケティングにおいては、顧客獲得から育成、商談へと繋げるプロセスを最適化する上で非常に有効です。ファネル分析ツールを使いこなし、顧客理解を深め、継続的に改善を重ねることで、持続的な成長を実現しましょう。
回答:ファネル分析は、企業間取引(BtoB)、ソフトウェアサービス(SaaS)、オンラインストア(ECサイト)など、顧客の購買行動が可視化しやすいビジネスモデルで特に効果的です。なかでも、顧客とのタッチポイントが多く、データ収集が容易なオンラインビジネスでその力を発揮します。ただし、顧客行動が複雑な一般消費者向け(BtoC)ビジネスであっても、顧客体験マップ(カスタマージャーニー)と組み合わせることで、価値ある気づきを得ることが可能です。
回答:改善点が複数特定された場合は、優先順位の設定が不可欠です。収益への影響度が高い箇所や、比較的容易に改善できる箇所から優先的に取り組むことを推奨します。さらに、A/Bテストなどを活用して、改善策の効果を検証しながら進めることで、コンバージョン率(CVR)を効率的に向上させることができます。
回答:ファネル分析を実行する上で最も大切なことは、目的を明確にすることです。コンバージョン率の向上、顧客満足度の向上、新規顧客獲得など、目的に合わせて適切なファネルを選び、重要業績評価指標(KPI)を設定する必要があります。加えて、データ収集の精度や顧客行動の多様性を考慮し、分析結果をそのまま受け入れるのではなく、他の分析手法と組み合わせて活用することが重要です。